須藤拓也 陶展

2010年10月23日(土)−30日(土)
作家在店日:23、24、25、30日

初めて手にした白釉の器は、[子供のほっぺた]を
思わせました。潤う、柔らかな肌を。
ルリ釉、鉄釉に灰釉。磁器に染付。そして鉄絵と、
様々な手の器を作られている須藤さん。
どの器にも感じられる穏やかで澄んだ空気感。
狙って出せるものではけしてないでしょう。
そして他の器ともすんなり馴染み、どこか自分の
役割を心得ているようなところがある器です。
今展では、染付の絵柄や、白磁手びねりの形に
新たなものがあるそうです。[食卓にいつもある]、
そんな器に出会っていただけるかと思います。

先日、東京の国分寺市で作陶をする
須藤さんの工房を訪ねました。
引っ越してきて半年だと言う工房は、
昭和の薫りを所々に残した一軒家で、
紫陽花やショロの木、南天他、草木が
植わる庭つき。築年数はだいぶ経つと
思われる家でしたが、綺麗にスッキリと、
須藤さんらしく住まわれていました。
近くには、湧水の小川が流れ、樹木も
茂る緑豊かで、のどかなところです。

須藤拓也 すどうたくや

1972年 福島県生まれ

明治大学文学部中退後、
多摩美術大学二部デザイン学科 
                 卒業

グラフィックデザインの仕事に
ついた後、
愛知県立窯業高等専門学校で
陶芸を学ぶ

現在、東京国分寺市にて制作

これが鍵だとわからない方も、
もしかしていらっしゃるかもしれ
ませんね。真鍮でしょうか。
今も現役・・・ 愛おしいくなります。
懐かしさあふれる造りの家でした。

須藤さんの愛車。リュックに器を詰、
これで当店まで納品にも来てくれます。

白磁の猪口にはりんごジュース、灰釉のしのぎ小皿にクッキーを。
そして、鉄釉の四方皿にはマフィンをのせてだして下さいました。

大らかな中国の古染付が好きだと言う須藤さん。
オリジナル唐草模様の染付です。

左:白磁・手びねり7寸鉢。右:上から、白釉5寸皿。色絵小鉢。
鉄釉長皿(いつもの長皿より一回り大きいものです)

展覧会用に、一部焼き上がっていた物です。丁寧に作られています。[サギ]や[シギ]を描いたという、
当店ではご紹介した事のない絵付け(ちょっと笑えた)の小鉢などもあり。使ってみたい、
盛ったらいいかもと思える器が色々ありましたので、実物は是非会場でご覧になって下さい。

[工房にお邪魔します]

須藤さんが使う電気窯です。
同業者の方なら驚くサイズなんだ
と思います。このコンパクトな
窯1つで、独立してから7年、
やり続けているそうです。この
大きさ故、焚く頻度も多く(特に
展覧会前は)、いつ壊れるか
ハラハラしていると言う話を
以前に聞いていたので、もっと
ボロボロかと思っていましたが、
表面的には傷一つない窯でした。

蹴轆轤をまわしてみせてくれる
須藤さんです。自己流だと言います。
回転にパワー(持続する)を付ける為、
下の円盤部分には、
鉛を自分で付け改良しているそう。

どこもかしこも余計な物が無く
整然としている須藤さんの工房ですが、
唯一、ここだけ雑然としていました。
土や釉薬が置かれた軒下縁側です。
(わざわざ写さなくてもだったかな?)

素焼をされたもの。これから本焼きです。

[道具も作り、大事に使われている]

工房では、道具らしい道具があまり見当たらず。目に止まったのは作業台の刷毛や筆だけ。でも奥から取り出して
見せてくれたのが、画像中央の型。憶えのある形です。よく見るのは、石膏で作られた型ですが、須藤さんの型は、
粘土を素焼して作ったもの。収縮する事を考えると石膏の方が作りやすいはずですが、素焼の方が丈夫で、1度作
ればずっと使えるからと、須藤さんはこちらにしているそうです。そして驚いたのが、ビニール傘の骨で作ったと言う
右画像の[かきべら]。須藤さんは主に、手びねりの碗などの見込み部分を削り出すのに使っているそうです。サイズ
違いで揃ってます。でも実はこの骨使用、陶芸の学校で教わった事なんだとか。道具も物として、美しいと思えました。

殺風景な工房に、須藤さんらしからぬ
プリティーなもの発見。
木枠の窓ガラスに散りばめられた
ピンク色のシール。模様は雪の結晶?
前の住人が残していったもののようです。
どんな方だったのでしょうねぇ・・・
意外と須藤さん、気に入っていました。

[番外・お鷹の道]

左画像:教材になっているという古い器を見せていただく。趣味のいいものばかり・・・ ちょっといいお値段の縄文土器もあり。
中画像:人の本棚を覗くのはどこか気が引けるので、よくは見ていませんが、焼物関係の本ばかりのようでした。当然かな。
右画像:秋が深まる気配がない中、須藤さんちの斜め向かいの空き地(?)では、黄花コスモスが咲き乱れていました。

快適で便利な方へと加速する一方の世の中とは逆行するような須藤さんの暮らしぶり。
物も必要最小限。家電がほとんどありませんでした(エコ推進モデルと言えそうです)。
一番したい事ができる環境さえあればいいというシンプルな答えがわかりやすくそこにはありました。
物腰やわらかで、器の表情と同じ、穏やかな須藤さんですが、かた〜い意志は見え隠れしています。
どうして蹴轆轤なのかと尋ねた時、バイクより自転車を好むの同様、自力が好きなんだという返事。
苦労を伴っても、深く体感することに喜びがあり、成し遂げる充実感も、自力作業だと違うのでしょう。
不便さも楽しみ、人を羨ましがるようなこともなく、我が道を行く須藤さんです。

古多摩川が武蔵野台地を浸食して
できたという、国分寺崖線という段丘
があり、そこからの湧き水が、須藤
さんちの裏手すぐそばで、小川に
なって流れています。その清流沿い
の小道が[お鷹の道]です。
夕暮れ時、ぶらぶら歩いたのですが、
道沿いには野菜の直売所もあり、
[完熟いちじく]ののぼり旗を見つけ、
覗いてみましたが売り切れ。残念!
子供も水にふれて遊び、名水百選に
もなっているらしいので、湧水地点で
水を汲んでいる人の姿も。須藤さんも
ここの水でコーヒーをいれているそう。
そして今年の夏は、なんとこの場所で、
沐浴もしていたというからびっくり。
「近所の人には不審がられているかも」
と本人。そらゃそうでしょう。確かにひん
やりとした水で気持いいんでしょうが・・・

ここから湧いていて、汲んでいます。

須藤さん、怪しい人になってませんか?

立派なケヤキやコナラ。

*蹴轆轤(けろくろ)
 電動ではなく、字の如く、
 足で蹴り、轆轤を回転させます。

exhibitionのページにもどる