小林慎二 漆展

2010/11/27(土)−12/4(土)
作家在店日:27、28、3、4日

一汁三菜、並ぶ器の要になるのは漆の椀。
確かに良いと思える物を、少しずつ揃えたい。
そう考えているところに、小林さんの漆器との出会い。
右写真に写るのは、素地が真鍮の花入れです。
「僕の中では椀類などと着地点は同じで、むしろ
繊細に制作しました」、の一言が添えられて届き、
塗師という小林さんの仕事を改めて意識させられ、
新たな試みへの、静かな意欲も感じました。
お雑煮にいい新作の大き目椀他、椀各種、お皿類、
お弁当箱、重箱、折敷、お盆、サーバーやお箸・・・
漆の器の魅力にたっぷり浸っていただきたいです。

小林さんの工房を、11月初旬に訪ねてまいりました。
能登半島でも日本海側の輪島とは反対側、内海沿い
の穴水町に小林さんは工房を構えています。能登空港
から車で20分くらいの所。まずは左右緑の山中を走り、
能登らしい黒い瓦屋根の家が並ぶ景色も目にした後、
『この先に家が?』と思う様な細い山道に車は入って
行きましたが、しばらく行くと、小林さんの暮らす集落に
到着。初めての漆工房は興味津々。当たり前ですが、
今まで訪ねた作り手の工房とはまったく違っていました。

小林慎二 こばやししんじ
1974年 東京に生まれる
2001年 東北芸術工科大学芸術学部
                   卒業
       赤木明登氏に弟子入りが決まり、
       輪島漆芸技術研究所を退所
2005年 4年の年季を終える
2006年 1年の御礼奉公を終える
2007年 独立

左:こちらが下地作りをする部屋です。机がいやに低く違和感がある
 のですが、漆を練ったりする作業がしやすい高さになっているそう。
中と右:こちらは精製されていない生漆(きうるし)。小林さんが使う漆は、
 中国産 の物(国産は採れる量がわずかで、価格もいいそう)。漆も生もの
 で腐る らしく、新しいと柑橘系の良い香がすると聞き、実は漆にかぶれる
 店主ですが、鼻を近づけてみました(腰は引けていた)。確かに甘酸っぱい香り。

小林さんは塗り専門の塗師(ぬし)なので、木地は木地師に頼む事になります。
最初の1つ目を作る時には、木地師の傍らで微妙な調整を頼みながら、形を
作ってもらうと聞いた事があります。木地師も椀などの挽物、重箱などの指物、
お盆などの曲物、匙などの刳物と、それぞれ更に専門に別れるそうです。
左と中央:わっぱと新作の椀類の木地。木はわっぱがあすなろで、椀はけやき。
右:椀は縁を丈夫にする為、麻や綿の布を張りつけて補強します。布着せと言う
 作業。漆と米糊を混ぜたもので布は貼り付けます。そして小林さんが使う布は、
 意外な物で、農作物を覆う寒冷紗なんだそうです。

左:机の引き出しにはものすごい数の下地用のヘラ。素材は輪島でよくとれるあすなろだそう。
中・右:塗り始める前に、[塗師刀]と言う小刀で、ヘラの先を椀のカーブに合わせカット。
 しなり具合もみて削ります。勢いよく小刀を扱う姿は正に職人。こういう作業が大事で、
 手を抜いてはいけない事なのでしょう。

小林さんの下地は、珪藻土が材料に
なる[輪島地の粉]と言う粉を漆に混ぜ、
パテ状に。珪藻土の地層がある輪島
ならではの地の粉のようです。

1、輪島ブランドの地の粉です。粒子の
 大きさがそれぞれ違います。塗り重ね
 ていくごとに段々細かい地の粉を混ぜ
 ていくんだそうです。
2、左が米糊と混ぜた漆。右が地の粉と
 混ぜた漆。
3、硝子板の上で練り下地塗りが始まる。
4、実験道具の様な物がセットされました。
5、これは何と轆轤。陶芸の物とはだいぶ
 様子が違います。手に持ち塗っている
 ものとばかり。
6、電動でも蹴ってもいません!歯車で
 回転させる手動です。左手がハンドルを
 回しています。
7、こちらも轆轤。先ほどは椀の胴部分を
 塗っていましたが、こちらは見込み部分を
 塗る用の轆轤。高台を金具で挟み固定。
8、轆轤の台が傾いてます。よくできてます。

こんな風に下地を塗り、乾かしては表面を
砥石などで研ぐという工程を3回繰り返し、
更に中塗りと言う作業を3回し、仕上げの
上塗へと進みます。 何度も塗りを重ねて
いるのですから、木地にプラスされた厚みは
数ミリにはなっているだろうと思っていた
ところ、1ミリにも満たないと聞き驚愕しました。
しばらくしつこく何度も聞き直してしまう。
塗師の仕事が1ミリ以下の世界とは、
恥ずかしながら、初めて知ったのでした。

左:ここが最も神経を遣う上塗の部屋。ほこりをたてぬよう無駄な動きはしないそう。
 無菌室の様です… 上塗をする日は2歳になるお嬢さんを外で遊ばせなくてはなら
 ないそうです。この日は保育園で会えず。
中:美しくて感動の刷毛。質の良い刷毛を作れる人が日本に1人しかいないとか。
右:生漆から水分を2.5%にまで蒸発させた上塗用の漆。蒸発させる為、径1mぐらい
 ある大きな桶で、オールの様な物を使い練るそう。これを機械でやってしまうと、小林
 さんの漆のマットな質感は出ないそう。透明な物。顔料や金属を混ぜて作る赤や黒。

1:これは、上塗をする際、器に付ける[くだ]と言う持ち手。
 蝋が塗ってあり、それをアイロンで溶かし、高台などに接着。
2:付いたほこりを取る仕草をしてもらう。先の尖った、[節上棒]と言うこの
 道具は、トンビの羽の骨だそうです。見ているだけでも体が強張ります。
3:塗り終わると、[アリ手板]と言う物に器は固定。ちなみにこの片口の色、
 新色だそうです。いい色でした!
4:[機械風呂]と言う乾燥させる為の室に、画像の様に設置。
5:そしてここからがびっくりな光景です。機械風呂の棚が回転し始めます。
(回転風呂とも言うよう)塗った漆が垂れまわらぬよう、回転しながら乾かす
 仕組みです。モーターが動力で、タイマーで5分おきに回転の方向が変
 わり、12時間回し続けるそうです。

左:途中経過の物の棚。重箱やお弁当箱もあり。
中:神経を細かく使う、様々な工程を経て出来あがった漆器。
 堅牢に作られ、そして何て言ったって美しいです!
右:「H.worksに行くものです」と覗かせてもらったのは、やはり
 乾燥させる為の[塗師風呂]。立派なものですねぇ。 この中に
 加湿器も入れ、温度と湿度の管理はしているそうですが、お天気
 に大きく左右され、その乾き方で色の出具合もかわってくるそうです。

[ごちそうさま]
お昼時に
伺ってしまい
・・・

[番外・金沢]

奥さまあつ子さんの手料理はどれも美味しく、心のこもったおもてなしをしていただきました。
二人ともよく食べるそうで、確かにこの時も小林さんの食べっぷりはよかったです。汁椀、
お箸、しゃもじ(サーバー)は小林さんの物。自分の宣伝は控えめです。あとは染付や南蛮、
見覚えのあるものもありの焼物の器。あつ子さんは、小林さんが弟子入りされていた赤木明登
さんの工房で、やはりお仕事をされていて、当時は小林さんの先輩。あつ子さんがして下さった
その頃の話に、店主は笑いっぱなしでした。そしてそれは、5年間、毎日共に仕事をする中で、
信頼関係は強くなっていったんだなとわかる話でもありました。小林さんの漆器は、特徴的な
印象を残す漆器ではけしてないでしょう。シンプル過ぎるぐらいシンプルです。でもその潔い
シンプルさが、逆に個性になると感じます。いやらしいさやクセが無く、品があります。食卓に
一杯並ぶ、主張する器の中でまとめ役になる器。これから出番のある重箱もそうなるでしょう。
右画像は小林さんが作って下さったわらび餅。甘さほど良い優しい味。

穴水から金沢に向かうバスは途中
ちょっと寂しい長い日本海沿いを
走りました。北陸の空は気まぐれに
ころころ変わるそう。厚い雲が低く立ち
込める季節がこれから来ると、小林
さんの顔も曇りぎみに変わる・・・

自己アピールよりは、まずベーシックなものを、こつこつ作っていく事が
大事だと、今は感じていらっしゃるようでした。せこせこしたとろが無く、
優しい小林さん。↑野山を一緒に散歩する愛犬マルと。

様々な工程があり、細かい段取りが出来ないと仕事にはならないようです。
そして神経の張り詰める作業。精神的にも強くないとでしょう。小さな事に
腹を立てるような人には向かない仕事だと感じて帰ってきました。

13年前に能登と金沢を巡る旅をしています。まだ能登空港も無く、越後湯沢周りの電車の旅。
その時は輪島へも行ったのですが(朝市にも)、今回は時間も無く小林さんの所と金沢だけに。
金沢も近江市場と21世紀美術館、骨董屋や雑貨屋が並ぶ新竪町商店街をぶらぶらするのん
びりコース。お天気も良く(聞くところによると久々の晴天だったらしい)、犀川の河原沿いを歩く
のも気持良かったです。
A・B、近江市場。八百屋も魚屋も沢山あり。近くにお住まいの方いいですねぇ。
C、両脇に松と柳があるところが素敵なお店。看板の天狗の顔も気になる構えの立派な肉屋さん。
D、金沢21世紀美術館。以前より行きたかった所。大きすぎず、疲れずに見て回れます。企画展の
[ペーター・フィッシュリ ダヴィッド・ヴァイス]は楽しめました。皮肉も込められた作品に笑う。

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